移住者・住宅購入者インタビュー
2017/10/23
投資会社での経験をいかして戦略的に梨農家の経営をしていきたいです
- 豊田雅広さん 康恵さん
- Uターン
- 就農
- Qいつ美祢市に?
- もともと美祢市秋芳町別府地区の出身です。横浜国立大学への進学とともに美祢市を離れ、そのまま大学院に進学、東京で就職し、2009年にUターンで帰ってきました。妻は山口市阿知須の出身です。結婚を機に美祢市で暮らすようになりました。今は両親と子供3人、そして私たち夫婦の7人家族です。
- QUターン前のお仕事を教えてください。
- バイオ関係を専攻し研究職を目指していましたが、就職難の時期で関連の就職先があまりなかったこともあり、銀行系ベンチャーキャピタル(投資会社)に就職して営業職として働いていました。大学時代に学んだ専門的な知識は、ハイテク企業への投資判断にいかしていました。
日本経済新聞をはじめインターネットや雑誌などから情報を集め、投資先を見つけ、電話してアポイントメントを取って・・・といった典型的な営業です。
銀行などの融資と違い出資(株主)となるので起業当初は赤字になってもその後軌道にのるかという事業の継続性・成長性や、社長の資質などを見極めるといったことはもちろんですが、他の投資家よりも先んじて有望な投資先を見つけることが重要でしたね。
- QUターンのきっかけは何だったのでしょうか?
- 職業柄、様々な社長や、事業を興そうとしている人たちにお会いし立ち上げのお手伝いをしましたが、何もない状態から目標を持ち戦略を立てて取り組むことで、事業が軌道にのっていくプロセスをつぶさに見てきました。田舎だからとか事業内容といった環境は関係ないんだなということを実感しましたね。そして、起業のサポートではなくプレイヤーの立場で仕事がしたくなり、実家が梨農家で私が長男ですから、40歳前後で家業を継いで梨農家の経営をと思っていました。
ただ、家業を継ぐ前に適当なタイミングで起業し経営者としての実務経験を積んでから美祢市に帰ろうと考えていました。
ところが、30歳のときに父が病気になり、今帰れば、梨栽培を父に教えてもらいながら家業を継ぐことができるけれど、ベンチャー企業で実務経験を積んでからではスムーズな事業承継が難しいかもしれないということになり、30歳の段階で家業を継ぐことを決心しUターンしました。
- Q住まい探しはされましたか?
- Uターン後は実家に住んでいましたが、結婚したら引っ越そうと思っていました。
梨畑から遠い場所に住むと不便ですから別府地区に物件があればと思っていましたが希望の物件がなかったため、結婚後も引き続き実家に住むことになりました。
秋芳地区には、賃貸物件が少ないのでちょっと試しに住んでみようというときに使える施設があるといいですよね。
移住してくる人のハードルが下がると思いますし、今後、高齢化が進み梨農家を辞めていく人が増えることが予想されるため、そういった施設があるといいなと思いますね。
- Q現在の梨作りについて教えてください。
- 2009年にUターンして最初の2年間は父の手伝いでしたが、3年目から父名義の農地の一部を自分名義にして青年就農給付金(現在の農業次世代人材投資資金)を受けながら本格的に梨づくりを始めました。今年(2017年度)から父名義の梨畑をすべて自分名義にして1.1ヘクタールの作付面積で主に20世紀梨という品種を作っています。
秋芳梨生産販売協同組合に所属しているのですが、組合では20世紀梨を秋芳梨というブランド名で販売しています。秋芳梨は100年以上の歴史とブランド力があるため組合を通して梨を高値で販売でき、生産者が売り先を新規開拓する必要がないという大きな特徴があります。
生産した梨は組合の選果場に出荷します。そして、選果機で等級が決まり等級をもとに配当単価が決まってくるので、高品質の梨を作れば収入も増えるという点、売り先を心配することなく梨作りに専念できる点が秋芳梨を作るうえでの大きなメリットですね。
それと、例えば新規就農で入ってもらっても組合は、教育体制もしっかりできているので3年程度で一定品質の梨をつくることができます。
私はマニュアルを踏襲しつつ、摘果のタイミングや土づくりなどを工夫してより品質の高い梨づくりを目指しています。
- Q作ることに専念できるのは大きな強みですね。実際に就農してみて当初の印象と違いましたか?
- 雅広さん:
思っていたより楽だったという印象ですね。
東京で働いていた時は、朝7時には家を出て、帰宅は夜12時をまわることもざらでした。通勤時間は1時間程度ありましたし。就農後、労働時間は長くても8時間です。朝早い時期もありますが、自分のペースで仕事が進められますし、社内の人間関係といった人的ストレスは無くなりましたね。
繁忙期は休みなしですが、収穫後は農閑期になるので生活にメリハリがあります。私は、組合の会計を担当していますので収穫後も忙しいこともありますが、農閑期には1週間~2週間程度であれば、休もうと思えば休むことができます。組合員の方には毎年のように海外旅行に出かけられる方もいらっしゃいますよ。特に冬季は枝の剪定が主な作業になるので、時間的なゆとりはあると思います。
康恵さん:
農家ということで土日が無いのにはいまだに慣れませんが、子育ての面では、子供が保育園から帰る時間には必ず家にいてくれるので本当に心強いです。
朝、子供のためにおにぎりを作ってくれたりもしますよ。
- Qお父さんの鑑ですね! 時間の余裕だけでなく心の余裕もないとできないと思いますが就農による効果でしょうか?
- 自分で仕事のスケジューリングができるからでしょうね。会社員時代は、時間に縛られていたし、体調が悪い時も共同で働かなくてはいけませんでしたが今は自分の体調と相談しながら仕事を進めることもできますし、楽になったと思いました。
ただ、収入の面では金融機関に勤めていた時よりも減りましたね。でも田舎暮らしですから、家賃や駐車場は安いですし、居酒屋も近くにあまりないので飲みに行くことも減りましたので、生活コストは下がりましたよ。
- Q梨作りでやりがいを感じるのはどういった時ですか?
- 梨作りを初めてまだ間もないので、自分の梨の等級や売り上げが結果として数値でみえてくる点が面白くやりがいを感じています。
秋芳梨については組合での取り扱いになりますが、違う品種であれば、それぞれの経営者の一存で販売することができます。これからは、嗜好が多様化していることもあり、違う品種にも挑戦したいと思っています。
- Q1年の流れを教えてください
- 4月 交配(花粉付け)
5月 摘果
5月中旬 袋掛け(小袋)
田植え
6月 袋掛け(大袋)
7月 干ばつ対策、水やり藁敷き 枝の整理
8月 出荷
9月 出荷・稲刈り
10月 稲刈り
11月 土壌改良
12月 剪定
1月 剪定
2月 剪定
3月 剪定
繁忙期は、交配から摘果、袋掛けで4月から6月中旬になります。繁忙期には家族総出で、さらに近隣や市外の人をアルバイトで雇って対応しています。
梨作りのほかに稲作もしていますが、稲作は梨の出荷期間と重ならないように晩生(きぬむすめ・ヒノヒカリ)を作付けしています。
- Q新規就農を考えておられる方にアドバイスをお願いします
- 秋芳梨生産販売協同組合はノウハウが確立していますし、サポート体制もあるので経営が成り立ちやすいと思います。
就農にあたって不安が多いと思いますが、不安を取り除くことができる仕組みがあるかなど、事前に調べてみるといいんじゃないかなと思います。
- Q美祢市での暮らしについてお聞きしますが、東京から戻ってこられて不便だなと感じられましたか?
- 雅広さん:
中山間地域ですから買い物は少し不便だなと思いますが、通信インフラは最低限ありインターネット通販ができますから許容範囲ですね。大手サイトであれば、注文から翌々日には届きますし。
もともと美祢市出身ですから、上京する以前の生活に戻ったという感じですね。
康恵さん:
大型スーパーまで自動車で数十分かけて買い出しに行く必要がありますので、買い物はやっぱり不便かなと思います。何かするときは計画的に事前に考えて買い物をするようにしています。早めに購入したクリスマスケーキのイチゴが当日傷んでしまったり、お誕生日ケーキのろうそくが無いなどで困ったことがありまして……。もちろん最低限のものは近所の店舗でそろうのですが、急な買い物ができない点が不便ですね。日々の食材や日用品は宅配サービスを活用していますよ。
それと近くに小児科がないのが不便ですね。普段は自宅から自動車で30分程度のところにある山口市小郡の病院にお世話になっています。まぁそれでも慣れましたね。
- Q美祢市で暮らしてみて良かったなと思うことはありますか?
- 康恵さん:
子育てについては、あったかい環境で子育てできる点がとてもいいですね。
都市部では、クラスが違ったり年が離れると子供たちの名前もわからないと思いますが、うちの子供が通っている保育園は子供が30人程度(2017年9月時点)ととても少ないので、兄弟みたいに過ごしていて、すごくいいことじゃないかと思っています。
どの子にも声をかけられるし、親御さんの数も少ない分、お互い顔が見えるからでしょうか、小さいコミュニティのあったかさを生み出していると思います。みんなで協力し合って子育てをしている感じはしますね。
役員も、結局人数が少ないから、みんなでやらないとしょうがないという部分もあるので何事も協力しているんですよね。小さいコミュニティなりのメリットだな、これはこれですごく楽しいなと思います。
- Q子供が少ないことがメリットになる点は他にありますか?
- 康恵さん:
子育て広場という美祢市運営の子育て支援施設があってすごく気に入っています。そこで仲良くなったお母さんたちと子育てサロンも作りました。お互い子育てに悩んでいるので、助言がほしいときに、サロンの皆さんが暖かく手を差し伸べてくれるんですよね。
美祢市社会福祉協議会さんに会場をお借りしているのですが、美祢市社会福祉協議会さんが本当に親身に相談にのってくださっています。
最初は子供が少ないことが気になっていましたが、主人に『子供の数が多ければ多いなりに、少なければ少ないなりに良いことも悪いこともあるよ』と言われ、確かにそうだなと今は思うようになりました。子供と一緒に散歩していても、『大きくなったね』と近隣の方がいつも声をかけてくれるし、良くしてくださるので、ありがたいなと思います。
- Q美祢市に住んでみてこれはちょっと嫌だなということはありますか?
- 雅広さん:
住めば都と思っているので特に無いですね。
康恵さん:
30代、40代が軽い感じで趣味をみつけるような場や、子供の習い事、手軽に文化的なことに触れる場がほしいですね。それと子供が少ない分、たとえば親子で参加できるキャンプとかそういったイベントを開催してほしいですね。
- Q困ったらどなたに相談しますか?
- 雅広さん:
行政の方や農協に相談したりすることが多いですね。東京で働いていたときには、行政との繋がりはほとんどありませんでしたが、美祢市役所の職員の方はいろいろ動いてくれるし、田舎ですから知り合いも多いので欲しい情報の入手のしやすさはありますね。親身に相談に乗ってくれるなと思います。
康恵さん:
子育てに関することは、保健士さんや社会福祉協議会さんや図書館の職員さん、保育園の園長先生、子育て広場の先生、直売所のおばちゃんなど、いろんな方に相談しますね。相談しやすい環境だなと思います。
- Q美祢市の魅力を教えてください
- 秋吉台をはじめとして、自然環境が豊かですから子育てにはとてもいい環境だと思います。秋芳梨や美東ごぼうなど全国に誇れるような特産品もあるし、美祢市の炭鉱の歴史も紐解くと面白いと思います。そういった魅力も発信していけばいいと思いますね。
- Q移住を考えておられる方にアドバイスをお願いします
- 移住するまで不安なことが多いと思いますが、意外と住んでみれば不安が解消されるものです。田舎には都会にはない良さがたくさんありますし、困難なことがあっても、地域の人や行政が相談に乗ってくれるので、勇気をもって一歩踏み出してみてほしいなと思いますね。その一歩が大事だと思います。
- Q最後に今後の展望を教えてください。
- 秋芳梨以外の品種にも挑戦し、独自の販路を開拓していきたいですね。
作ることだけではなく売ることにも力を入れていく必要がありますが、売ることをきっちりやっていけばチャンスも広がると思っています。
いいものを作れば売れるわけではないですし、売ることに苦戦している農家さんも多いと思いますが、ベンチャーキャピタルでの経験やマーケティングの知識をいかして戦略をたてて売上を拡大していきたいですね。
それと、組合の立場として新規就農者受け入れについての話になりますが、梨は休耕すると病気が蔓延するため休耕時には伐採する必要があります。ただ、農地が空くタイミングというのは組合ではわかりませんので、今後受け入れ態勢を整えることが課題です。仕事がないと、移住は難しいですから秋芳梨の産地として、若い人が来ても生活が成り立つような環境づくりをしていきたいですね。
プロフィール
豊田雅広さん
職業 :梨農家
出身地:山口県美祢市秋芳町別府
現住所:山口県美祢市秋芳町別府
移住した年:2009年
秋芳梨についてはこちらをご覧ください。
子育て広場についてはこちらをご覧ください。
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